大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

名古屋地方裁判所 平成8年(わ)1378号 判決

裁判所書記官

長瀬憲彦

被告人(法人)

名称

玉一商店株式会社

本店所在地

愛知県葉栗郡木曽川町大字黒田字寺東一番地

代表者

玉山一男こと金兌権

被告人

氏名

玉山一男こと金兌権

年齢

一九五四年四月二三日生

職業

会社役員

国籍

韓国(慶尚南道昌寧郡大合面茅田里一一七四番地)

住居

愛知県一宮市奥町字川崎三五番地の三三

検察官

掘本久美子

弁護人

井上利之(私撰・被告人両名につき)

主文

被告人玉一商店株式会社を罰金一二〇〇万円に、被告人玉山一男こと金兌権を懲役一年にそれぞれ処する。

被告人玉山一男こと金兌権に対し、この裁判確定の日から三年間、右刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人玉一商店株式会社は、愛知県葉栗郡木曽川町大字黒田字寺東一番地に本店を置き、婦人服及び和装製品の製造販売等を目的とする資本金一〇〇〇万円(平成七年五月三一日以前は、八〇〇万円)の株式会社であり、被告人玉山一男こと金兌権は、被告会社の代表取締役として、同会社の業務全般を統括しているものであるが、被告人玉山一男こと金兌権は、被告会社の右業務に関し、法人税を免れようと企て、架空の仕入れを計上する方法により、所得の一部を秘匿した上、

第一  平成三年四月一日から平成四年三月三一日までの事業年度における被告会社の実際の所得金額が四四九三万〇四〇三円であったにもかかわらず、同年五月二八日、愛知県一宮市栄四丁目五番七号所在の所轄一宮税務署において、同税務署長に対し、所得金額が二三三九万九九七九円で、これに対する法人税額が八〇一万〇四〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって不正の行為により、同会社の右事業年度における正規の法人税額一六〇八万四六〇〇円と右申告税額との差額八〇七万四二〇〇円を免れ

第二  平成四年四月一日から平成五年三月三一日までの事業年度における被告会社の実際の所得金額が一億二七九九万八一六二円であったにもかかわらず、同年五月二六日、前記一宮税務署において、同税務署長に対し、所得金額が五一五一万九二四〇円で、これに対する法人税額が一八五五万一一〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって不正の行為により、同会社の右事業年度における正規の法人税額四七二三万〇七〇〇円と右申告税額との差額二八六七万九六〇〇円を免れ

第三  平成五年四月一日から平成六年三月三一日までの事業年度における被告会社の実際の所得金額が一億一五六〇万五二三九円であったにもかかわらず、同年五月二七日、前記一宮税務署において、同税務署長に対し、所得金額が七一九四万七〇〇四円で、これに対する法人税額が二六一四万八六〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって不正の行為により、同会社の右事業年度における正規の法人税額四二五二万〇四〇〇円と右申告税額との差額一六三七万一八〇〇円を免れ

たものである。

(証拠の標目)

括弧内の数字は証拠等関係カードの検察官証拠請求番号を示す。

全事実について

一  被告人玉山一男こと金兌権の

1  公判供述

2  検察官調書(乙一ないし三)

一  大蔵事務官作成の査察官調査書(甲八ないし一三)

一  五藤惇(甲一四)、齋藤正人(甲一五)及び小境輝子(甲一六)の検察官調書

第一の事実について

一  大蔵事務官作成の脱税額計算書(甲一)及び証明書(甲四)

第二の事実について

一  大蔵事務官作成の脱税額計算書(甲二)及び証明書(甲五)

第三の事実について

一  大蔵事務官作成の脱税額計算書(甲三)及び証明書(甲六)

(法令の適用)

(本項で適用する刑法はいずれも平成七年法律第九一号附則二条一項本文により同法による改正前の刑法である。

以下「改正前刑法」と表記する。)

罰条 判示第一ないし第三の各行為につき、いずれも法人税法一五九条一項(被告会社については、さらに同法一六四条一項、罰金刑の範囲について度を法一五九条二項)

刑種の選択 被告人玉山一男こと金兌権につき、各懲役刑を選択

併合罪加重 被告会社につき、改正前刑法四五条前段、四八条二項(各所定の罰金額を加算)

被告人玉山一男こと金兌権につき、改正前刑法四五条前段、四七条本文、一〇条(犯情の最も重い第二の罪の刑に法定の加重。)

刑の執行猶予 改正前刑法二五条一項

(量刑の理由)

被告人玉山一男こと金兌権は、被告会社の代表取締役として、商売上、将来見込み違いの企画制作で失敗する危険もあることから、できるだけ資金を手元に残しておきたい等の理由から本件犯行に及んだものであるが、事業の安定経営を心掛けるのは経営者として当然のこととはいえ、脱税という違法行為を手段とするのは到底許されることではなく、動機に酌量の余地はない。また、被告人は、合計約五三一二万円もの法人税を免れたものであり、ほ脱率は約五〇パーセントであって、ほ脱額、ほ脱率がともに高く犯情は悪質である。さらに、脱税方法として、架空仕入れを計上するなど、脱税の故意も強固で計画的であり、犯情は芳しくない。

しかしながら、被告人が本件犯行を認め反省していること、既に重加算税等約一億五六〇〇万円を完納していること、被告会社の税理士を交代させ正しい経理、税務を行うよう努力していること、被告人に同種前科はなく、これまで真面目に稼働してきたこと、被告人には扶養すべき家族があること等被告人にとって斟酌すべき事情もあるから、これらの事情を総合考慮の上、主文の刑を量定した。

(求刑 被告会社に対し、罰金一八〇〇万円、被告人玉山一男こと金兌権に対し、懲役一年)

(裁判官 長倉哲夫)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例